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Audience【前編】

鬱ってます。
オリキャラ視点。だから自分が読みたくない物をどうして書くのか…。



Audience ~ある老婦人の回想~

【前編】



「いんちょ先生、じむちょ先生が至急、職員室に来て下さいって」
 その声に、老婦人は振り返って微笑んだ。
「今行くわ」
「じゃあ僕、先生たち呼んでくるね」
「ええ。お願い」
 元気よく走り出す少年の背中を見送りながら、彼女は目を細めた。
「元気だこと」
 そう、彼はいつも笑顔を見せてくれる。だけど、眠っている時は時折うなされ、飛び起きることも未だ続いているようだと報告を受けている。
 無理もない。
 彼の目の前で、両親は吹き飛ばされ、木っ端微塵になったのだから。
 それでも彼は、自分に笑顔を向けてくる。彼だけではない。此所にいる子供達、そして職員やボランティアの者、みんなそうだ。未だ痛みを抱えながら、それでも懸命に前を向いて生きていこうとする。
 それも全て、ここを創設した彼女のお陰だろうと思う。

「よろしくお願いいたします」
 そう言って彼女は頭を下げた。彼女は私財の殆どを抛って、この院を建てた。経営については一任します、と顔を上げて告げた、あの双眸を覚えている。

 もう、あれから2年過ぎた。
 痛めた左足を庇いながらも杖を突きつつゆっくりと歩く。

 この時間、天蓋は開け放たれ、穏やかな日差しが直接降り注いでくる。
 その青の色は、あの日を連想させて、僅かに痛みを伴うけれど。

 あの日。
 天蓋に映し出された空は青く、彼女の来艦を祝福するために晴れ渡っていた。その青空の下、
「おばあちゃん、いってきます!」
 傍にいた父親が苦笑するほど、はしゃいで手を振っていた。来年には成人を迎えるというのに、孫娘はまるで子供のように笑っていて、その時は本当に幸せそうだった。
「私、シェリルが好き!大好きなの!」
 常日頃、そう言って自宅でもずっとその歌手の曲を流していた。『ギャラクシー・ツアー』が決定し、フロンティア来艦の情報を聞いた時の彼女のはしゃぎっぷりと来たら。結局、孫の喜ぶ顔が見たくて関係筋からチケットを入手した。
「嬉しい、ありがとうおばあちゃん!」
『天にも昇る気持ち』というのはまさしくこういうことを言うのだろうか。自分にはそこまで熱心に好きになった歌手は居ないので、分からなかったが。ただ孫が心底喜んでいるのは嬉しかった。そして彼女は、
「一緒に行かないの?」
 と訊いた。
「おばあちゃんはお仕事だからね。お父さんと行っておいで」
「そっか。社長さんだもんね」
 娘の死後、離れて暮らす娘婿だが、彼女にとっては父親だ。たまには親子二人で出かけるのも良いだろうと、そう思ってのことだったが。

「…お嬢様は、父親と一緒に…」
 サンフランシスコエリアが宇宙生物の襲撃を受け、シェリルのコンサートに来ていた多くの観客が巻き込まれて犠牲となった。その中に。
 孫と娘婿は無残な姿になっていた。
 二人の遺体の状況から、父親は娘を庇おうとしたのだろう、と言われた。だが結局、二人とも倒壊したビルに押し潰されて死んだのだ…。
 
 行かせなければ、良かった。
 あんなチケットさえ、なければ。
 あんな歌手さえ、来なければ。
 せめて、一緒に行っていれば。
 

 逆恨み、だというのは分かっている。
 だがもう自分の家族は誰もいなくなってしまった。
 だからせめて、その時は恨みたかったのだ、彼女を。
 孫が聴いていたCDVも、全部彼女の棺に入れた。棺、といっても遺体はなく、僅かに遺髪と共に一緒に埋葬して貰った。彼女の音楽なんて、もう手元に置いておくことは耐えられなかった。

 それから戦禍はフロンティア全体に及び、社員にも犠牲者が出たが、それでもなんとか続けていた。

 そして、あの日。
 忘れもしない8月25日。
 街は『アイモ記念日』とやらで盛り上がっていたが、自分たちは仕事に追われていた。そんな中、居なくなったはずのバジュラが再び襲来し、会社のビルは焼け出され、残った社員達と命からがら手近のシェルターに逃げ込んだ。その時、左脚を骨折したが、傍にいた部下らにはそれを隠し、家族と合流するよう言いつけて、自分は一人になった。いつまでも続く閉塞感と、不安。緊張感に苛まれ、人々の苛立ちは時を追う毎に高まっていく。そして。
「救助は未だなの!?」
「軍は何をしているんだ!」
 政府と軍に対する批判の声に、
「…ランカ・リーはどうしたんだよ」
「そうだ。あの子がいればバジュラを止められるんじゃなかったのか」
 ある歌手への批判が混じる。 
 ランカ・リー。現代の『リン・ミンメイ』と謳われた奇跡の歌姫。その名を聴いた時、虫唾が走った。リン・ミンメイ、FIRE BOMBER、そして、シェリル・ノーム。いずれも伝説の歌い手、と言われた者達だ。だが。
(歌で争いが終わるわけがない)
 ミンメイの場合は、単に敵が『文化を知らなかった』からに過ぎない。そこにつけ込んで、人類は辛くも勝利を収めることが出来たのだ。
 歌、になんて、争いを止める力があるわけがない。ましてや『敵』は人間ですらないのだから。
(でなければ)
 歌に真実力があるなら、あの子は今も私の傍にいてくれたはずだ。
『シェリルの歌を聴くとね、元気がもらえるの』
 そう言って笑っていた、あの子。
 目を閉じて、あの子の思い出に浸っていよう。やがてこのシェルターは敵襲によって崩壊するか、人々の騒擾によって潰されるだろう。歩けない自分にとってはどちらにしろもう、長くはない。せめて、社員達が家族と過ごせていれば良いのだが。
 その時。
 人々の喧噪がピタリと止んだ。
 シェルターの天井が一部崩れているのか、そこからスポットライトのように光が射し込み、その先には。
「シェリルだ…」
 誰かが呆然と呟いた。
 でも、その後ろ姿は。

――おばあちゃん、聴いて。
 
 フロンティアの空に響け、と歌ったあの姿。
 あの子が好きだった、『ダイヤモンド・クレバス』の歌が響く。
「銀河の、妖精…」
 誰かの声に、
「あれが、シェリル?」
 思わず自分も呟くと、
「そうだよ、知らなかったのおばあちゃん?」
 直ぐ傍であどけない少年の声がした。
「…え、ええ」
「うっそ。ビジョンとかで観たことない?」
 少年は興奮しながらも、声を潜めて問い掛けた。シェリルの歌に、聴き入っているのだ。
 さんざん聞いていたはずなのに、歌詞を初めて聞いたと、思う。

――幼くして母親と死に別れた孫娘は、どういう気持ちで歌っていたのだろう。

 彼女は歌う。
 その声はどこまでも澄み渡り、このシェルターにいる全ての人々の心に届いていた。

 歌い終わると、万雷のような拍手が響いた。
「シェリル!」
「銀河の妖精…!」
 彼女を褒め称える聴衆の声。それを受けた彼女はゆっくりと、お辞儀をする。そして、振り返ってこちらにも。
(あの子が…)
 きっと、天使(アンギル)となったあの子が、少女の姿を借りて自分に届けてくれたのだろう。生きろ、という希望を。
「シェリルー!」
 傍にいた少年が、盛んに手を振って叫ぶ。
 その声を受けた少女は、柔らかく微笑んで手を振り返す。そして何故か、自分にも軽く頭を下げてきた。
「……?」
「おばあちゃん、はい」
 少年が、ハンカチを渡してくれる。
「あ、ありがとう」
 受け取って頬に触れ、初めて自分が泣いていたことに気付いた。

 それから彼女のライブが始まった。バイオリンを持ち込んでいた避難民が居て、それに併せて即興で歌い上げる。多くのリクエストが飛び交い、彼女はそれに応えてくれた。
 いつしか、人々の顔には笑顔が戻っていた。
 漸く軍からの救助が来たが、彼女の曲が中断されたので、ブーイングが起こったのが可笑しかった。


 それから半年後。
 社員達の大半は家族を失い、また行方が分からない者も多く、事業は畳むことにした。
 その矢先、シェリル・ノームが私財で立ち上げた孤児院の運営をして欲しいと彼女自身から依頼があり、引き受けた。彼女自身はギャラクシーが壊滅し、財産の半分は失ったとのことだが、それでもなお多くの資金を割いて慈善事業に回していた。芸能活動に関しては早乙女家のバックアップを得ているが、政財界のパイプが弱く、事業活動に関しては元経営者の自分に任せたい、と、シェルターを去り際に自分が渡した名刺を頼ってきたのだった。
 シェルターで一緒に過ごしていた少年も、この孤児院に来ることになった。そして、元社員たちも。子供だけでなく幼い子を抱え、伴侶を喪った父親や母親も受け入れ、職も提供することとなった。食料は基本配給制だったが、ゼントラの農夫が敷地内に畑を開墾し、野菜や穀物をなんとか賄えるようになった。そうやって何とか半年で軌道に乗せ、生活も安定してきた。
 その間に、シェリルは何度か此所を訪れ、子供達の相手をしていた。最初のうちは一人だったが、そのうち彼女は婚約者と二人で来るようになり、子供達は本気で悔しがっていた。
 ギャラクシーツアー出発前に立ち寄った彼女に、
「どうせなら、出発前に結婚式を挙げれば良かったのに」
 そう告げると、
「ええ、でもある程度落ち着いてから式を挙げたかったので」
 そう言って微笑んだ。彼女自身もだが、何よりもフロンティアの状況を思ってのことだったのだろう。




後編】へ続きます

テーマ : マクロスF
ジャンル : アニメ・コミック

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プロフィール

Rook

Author:Rook
ようこそおいでくださいました。
こちらはマクロスフロンティア感想・および原作とは全く関係のない妄想小話の吐き出し部屋です。
最初に来られた方は『はじめに』を一読下さい。
銀河の妖精至上主義
一応映画が公開されるまでの期間限定ですが、もしかしたら延長もあるかもしれません(笑)
→とりあえず完結編公開まで。

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