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Departure~The Songstress of 7th Moon

本編第1話。
1.The Songstress of 7th Moon

あげちゃっていいのか、この話。
という思いつつ連載開始です(…)
…ほぼオリキャラしかいないですし。


それでも宜しければ、続きからお願いします。





 ステージを終え、椅子に座るとどっと崩れ落ちそうになる。
(あの時みたい)
 汚いバーの裏に設えられた控え室。低い賃金。そして、たった数曲で奪われる体力。
 そう、昔チャリティーライブをしていた時と似ている。
「今夜も最高だったぜ、ミシェル」
 ノックもなしに控え室の扉を開けたのはこのバーの雇われマスター、グレイだった。
「ありがとう」
 彼から差し出されたコークを受け取り、ミシェルと呼ばれた女は乾杯のポーズを取った。
「ドクが今度「ダイナマイトエクスプロージョン」歌ってほしいってさ」
「また?好きだな、ドクは」
 そう言いながらコークに口を付ける。黙っていたら美人なのに、アッシュグレイのベリーショート、というヘアスタイルとハスキーな声、そして蓮っ葉な口調で、ボーイッシュというよりマニッシュな雰囲気だ。
喉が渇いたのか、一気にコークを流し込むその喉の動きを思わずグレイは見つめてしまい、そんな自分に気付いて赤面する。すると、ステージから激しい曲調と歓声が聞こえてきた。
「アギレイがまた『Welcome To My Fanclub』から始めたらしいな。あいつには合わないのに」
 苦々しげにグレイが呟く。決して下手とは言えないが彼女にはシェリル・ノームのカバーは向いていないと思っていた。音域が狭い上、最後まで息が持たない。素人のカラオケレベルになってしまう。彼女自身の歌ならそんなことはないのだが。
「客が乗っているんだから、いいんじゃないのか」
 ミシェルはそう言って席を立つ。
「帰るのか」
 それなら送ろう、と彼女に声をかけるが、
「ドクに話もあるし、少しアギレイのステージを見ていくよ」
 ミシェルはそう言って表に出ていった。
「アギレイがまた荒れるな…」
 辟易したようにグレイは呟く。アギレイもミシェルもここだけでなく、ほかにもバーやクラブで歌っていた。ミシェルは一月前にここに来たが、アギレイはこのバーで3年前から歌っている。が、ミシェルがここに来て歌ったそのときから、多くの客がミシェルの虜になった。ミシェルがバサラのカバーをメインにしていること、マニッシュな雰囲気はあるが、掛け値無しの美人であることがその理由だが、やはり歌唱力が圧倒的だ。
 そしてそのカリスマ性。こんな場末のバーには似合わない華やかな女。だが、どこか影を感じさせ、ここに集まる客たちに密かな共感を抱かせるのだろう。
 古参であるはずのアギレラが客を取られ、面白い筈がない。何かとミシェルに突っかかるが相手にされず、周りに当たるのだ。しかも彼女は場を盛り上げるため最近になってシェリル・ノームのカバーばかりを歌うようになった。
 アギレイは激しい曲調よりもバラードが向いている、とグレイは思う。だが本人に言ったところで余計荒れるだけだ。
 そんなアギレイが自分のステージをミシェルが見に来た、と知ったら更に敵愾心を燃やして暴走するだろう。
 そう思っていた矢先、「射手座」が流れ始める。
 アギレイがミシェルに気付いたのだろう。グレイはため息をついた。

 さんざん聴いた曲だが、別人が歌うとまた新たな発見があるものだ。だがやはり、高音が一部出し切れておらず、終盤ともなると息が続いていない。スタミナ不足と喫煙のせいだろう。それ以上の感想を抱かず、ミシェルはステージから一番遠いテーブルで不味そうにウォッカを舐めている男に声をかけた。
「ドク」
「…また、例の薬か」
 少し酔いの回った足取りで立ち上がる老人を支え、ミシェルは彼と二人で連れ立って店を出る。
 その後ろを、冒頭から少し掠れた歌声が追いかけてきたが、彼女の背にすら触れることはなく落ちていった。
 辿り着いたのは古いアパートの一室。簡易ベッドと小さな机の置かれた、狭い部屋。彼女はその机についている椅子にドクを下ろした。
「あいたたた…もう少し優しくできんか」
「悪いね」
 そう言ってミシェルは簡易寝台に腰掛け、デスクの上に左腕を差し出した。ドクは黙ってミシェルの腕に注射器を刺し、採血するとそれをすぐさま解析機にかける。
「安定しているようだな。だが、なるべく薬には頼るなよ」
 そう言って、鍵のついたケースを開け、錠剤の入った瓶を取り出す。
「これで2週分だ」
「せめて2ヶ月分貰えないかな」
 ミシェルを睨みつけると、
「2週間。それ以上は増やせん」
 と、ドクはきっぱりと告げる。
「ドク」
 少しねだるような口調で、
「ねえ、私はもう来週にはこの船団を離れるんだよ?次の船であんたみたいな医者に会えるか分からない。薬が切れたら終わりなんだ」
「…それなんだがな」
 ドクは深いため息をついて、
「お前さん、本当にここを離れるのか」
 と、訊いた。
「ああ」
 ミシェルの口調にも眼差しにも迷いはない。
「お前さんの事情には首を突っ込むつもりはないが」
 迷うようにドクは言葉を続ける。
「ここにずっと、居る気はないのかね」
「契約も1ヶ月だし。これ以上ここにいても”彼”は見つからない。私は”彼”を探して旅しているんだから」
「…」
 ドクは顎に生えた無精髭を撫でながら、
「ここで、お前さんが名を上げれば、”彼”の方から気付いて接触するかも知れないぞ?」
「それはないよ」
(昔はそれを期待していた頃もあったけど)
 話は終わったとばかりに、ミシェルは薬を取り、机の上に金を置いて立ち上がった。
「ありがとう」
 そして、
「チケットももう手配した。来週には発つよ」
 と、告げる。
「次はどこに行くんだね?」
「ないしょ」
 いたずらっぽく笑う。それから、思い出したように振り返って笑った。
「お礼に歌おうか、『DYNAMITE EXPLOSION』」
 ドクは一瞬顔をしかめたが、
「是非、聴きたいね」
 ミシェルは頷くと、歌いだした。伴奏もないアカペラだが、それがなくとも素晴らしい歌声だ。
 純粋にドクは彼女を惜しむ。
 おそらく自分が想像していることが当たっているなら、彼女は本来ここにいるべき人間ではない。そして、自分と彼女には少なからず因縁がある。出来れば彼女には陽の当たる場所で、笑っていてほしかった。
 だが彼女の旅はおそらく目的を達成することなく、近い内に終わるであろうことも彼は予感していた。それはもう変えることは出来ない。だがそれすら彼女自身の選択なのだから、彼にはなにもできないのだ。
 Aパートのみだが、見事に歌い上げると彼女の首筋には汗が浮いている。
「…良い歌だ。お前さんもすごい、と思うよ」
「…ありがとう」
 切れた息を整えてからミシェルは応えた。1ステージを終えた後で体力は限界に近い。そしてそのリミット自体が近づいていることも彼女自身気付いている。相当無茶をした自覚はあった。
「…じゃあ」
「待て」
 立ち上がったミシェルの背中を呼び止めて、ドクは急に思い立ったように、机の引き出しから紙を出し、それに何かを書き始める。
「もし、マクロス11に行くならこれを持ってこいつを訪ねると良い」
「…え?」
 ミシェルはその紙をまじまじと見つめる。大概の法的手続きは電子通信で決裁されるが、一定の様式の紙媒体に署名人の自筆で書かれたものはそれとは重みが違う。いわゆるそれは「紹介状」と呼べるものだろうが、
そこに書かれている宛名も署名した人間の名前も尋常ではない。
 宛名は全銀河で医師会の取りまとめをしている医療会ネットワークの会長、そして署名した人間は、かつてその前理事を務めていた人物で、画期的な遺伝子療法を開発し、以前はマクロスギャラクシーで船団の病院長会の顧問も務めていたが、ギャラクシー船団が全船民のインプラント化を推進する決議案を可決した際、追放され、その後行方不明となっていたのだ。
 ある病気に関することでギャラクシーの実態を調査していた彼女は、その人物の情報をある船団政府筋のから入手していた。
「これは…」
 以前見たホログラムの面影から遠くなっていると感じるが、確かに本人だろうと思われた。
「私もサインした方が良いのかな」
 書類には、下記の人物についての処方を求める旨記載されており、その対象者の氏名欄は空白のまま。
「彼の口の堅さは保証する。専門家ではないが、お前さん一度はきちんと検査を受けた方が良い」
「……無駄だと思う」
 そう呟き、ミシェルは紙を机上に置いたまま立ち去った。ドクは頭にわずかに残る白髪ををかきむしったが、その紙に、処方対象者の名前を書き付け丁寧に折り畳むと、封に入れて更に封蝋で印をする。


 ――フェアリー・ナイン。

 ギャラクシーを去った後、身を守るために姿を変え、身分を隠していたがその間でも独自に調査を進めている内に、そのコードネームを知った。
 知っていたが、実態を知れば知るほど恐ろしくなって、自分の身かわいさに知らない振りをすることに決めた。その結果が目の前の事実。
「…やはり儂は藪医者ですらないらしいな」
 そうひとりごちる。携帯用の酒瓶にもう一滴も残っていないことを知り、酒を買いに行こうと立ち上がったその時。ドアの向こうで人の気配がした。それはまるで、自分の来訪を告げるために発せられた強い気配。そ
の存在感だけでも常人は呑まれてしまうだろう。
 だが、ドクはそのまま相手の出方を待った。暫し逡巡した気配が感じられ、やがてドアベルが鳴る。
「どちらさんだね」
「……」
 平然とドクが問いかけたのに、相手も驚いたようだった。あの気配だけで完全に相手はイニシアチブを取ったつもりだろうが、そうならなかったことに感銘を受けたらしい。
「突然の不躾な来訪、お許しください」
 慇懃無礼の良い見本だな、とドクは心中で苦笑をかみ殺す。
「セールスならお断りだ。見ての通り、ぼろ屋でね」
「いえ…実は、お尋ねしたいことがあります」
「…まずお前さんの名前を聞かせてもらおうか」
 まるで芝居のようだ、とドクは思いながら問いかける。相手の名を聞き、少し驚いた。その名前を聞いたことはあるが今まで全く縁のない筈の人物だ。
 警戒心はあったが、結局興味が勝ったことでドアを開け、彼を迎え入れた。



2.Doctor and Actor】へ続きます

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Author:Rook
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こちらはマクロスフロンティア感想・および原作とは全く関係のない妄想小話の吐き出し部屋です。
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銀河の妖精至上主義
一応映画が公開されるまでの期間限定ですが、もしかしたら延長もあるかもしれません(笑)
→とりあえず完結編公開まで。

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