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3. Elle

第3話です。

Elle

遺された人々は。


 ステージの彼女はやはり美しい。そしてその場を一瞬にして制してしまう。バサラのカバー曲ばかりだが、今の彼女の声には良く似合っている。あるいはそうしやすいように、わざと喉を痛めたのかもしれないと思った。
「ミシェル!ミ・シェ・ル!!」
 熱狂的に観客達はその名を呼ぶ。彼女の本当の名を知ったら驚くだろう。だがこれで、彼女が彼女である確信は取れた。本来ならこの場から離れ、一刻も早く連絡を入れるべきなのだ。彼女を求める多くの知人へ。だが、今は彼女の歌に、その芸に惹かれていた。
「…ありがとう」
 ステージを終えると、そう言ってミシェルが頭を下げたので、客達はどよめいた。彼女はたいていステージを終えると、何も言わずそのまま去っていた。アンコールの拍手が鳴り響いても、それに応えることはない。
「こんなに多くの人たちに聴いてもらえてうれしい。だけど」
 一瞬、その双眸が伏せられる。
「明日のステージが、最後。私はまた別の船団に向かうんだ」
 それを聞き、客が再び響めいて、
「いくな、ミシェル!」
「いかないで!」
 悲鳴のような懇願が響く。
「ありがと」
 ミシェルはそう微笑むが、
「でも、明日が最後。だから、明日は何でもみんなの好きな歌、歌うから」
 マイクを握りしめて、叫ぶ。
「だから、明日は絶対聴きに来いよ!!」
 わああ、と客達はどよめき、めいめいに曲名を叫び始めた。
「セブンスムーン!」
「突撃ラブハート!」
 今までミシェルが歌った、バサラの曲を多くの客は叫んでいたが、
「歌うのは、明日だよ。今日は仕舞いだ」
 苦笑と共にミシェルはそう告げた。その時、
「射手座!」
 一人の声をきっかけに、
「そうだ、ミシェルの「射手座」が聴きてえ!」
「あたしは「ダイアモンドクレバス」!」
 シェリル・ノームのタイトルが列挙される。だが、
「ごめん。シェリルは…歌えないんだ」
 そう告げる。
 途端に、客達から不満の声が挙がる。
 それを、心中で苦笑しながら彼は見ていた。

 ――そう、歌えるはずがない。
 だが、不満の喧噪があがり、彼らは納得しないようだった。実のところアギレイの「シェリル・ノーム」に彼らは不満を覚えていたのだ。暫くして、
「わかった」
 ミシェルはそう、応える。
「明日が最後だから、一曲だけ…シェリルの歌も歌うよ。そのかわり、私が自分で選ぶから」
 そう告げて、ミシェルはステージを去った。

 その言葉に、彼は表情を曇らせる。
 彼女は旅を続けている。その名前もここにいる間の仮のものだろう。だが、その歌は。
 その歌を歌えばどうなるか、彼女は知っているからこそ今まで封印していたのだろう。それを、一曲とはいえ「歌う」というのは。
 いやな予感に、彼は早々に席を立った。

 控え室は壁が薄く、ステージの音響が響いてくる。壁越しでも、ミシェルの歌は良く聞こえた。グレイが控え室に入ったとき、珍しく先客がいた。
「…アギレイ。控え室(ここ)では禁煙だ」
「わかってるわよ」
 呆然と、アギレイは答え、まだ殆ど吸っていないたばこを携帯灰皿に押し込んだ。彼女は一方的にミシェルを天敵扱いしており、自分のステージが終わればさっさと帰るので、今ここにいるのは珍しい。
 ミシェルの歌う「Angel Voice」はもう終盤にさしかかっている。
 気付けば、細い声でアギレイも歌っていた。
「……良い歌だな」
 思わずグレイは呟く。その声に、アギレイは口ずさむのをやめ、
「そうね」
 短く同意した。
「わかっているのよ。あたしはミシェルにかなわない」
 珍しい言葉に、グレイは目を見張った。その声は湿度を帯びている。
「私がバサラを歌っても客達は乗らなかった。オリジナルを歌っても、乗ってくれないーーいえ、客は乗れないのよ。ミシェルの歌を聴いて、良く分かったわ。だって」
「そんなことはない」
 途中で、思わずグレイは叫んでいた。
 呆然とするアギレイに告げる。
「アギレイ、お前の歌は良かったぜ。でなきゃオーナーだってここで歌うことを許す筈ないさ。それに、俺は「シェリル」を歌うお前より、お前の、お前自身の歌が好きだ」
 そう言って、顔を赤らめた。思わずとんでもなく照れくさいことを言ってしまった、と今更気付いたのだ。
「…グレイ」
 アギレイは嬉しそうに、だが次に辛そうな表情を見せた。「あたし、あんたのそういうとこ、嫌いだわ」
 吐き捨てるように言って立ち上がる。
「あんた、ミシェルが好きなくせに。あたしにも優しい言葉かけるなんて酷いのよ。同情なんて、残酷だわ。あんたの自己満足で適当なこと言わないで」
「…アギレイ」
「あたし、あんたが『シェリル』を好きだって知ってたから」
 いつも、目の前の客にというより、たった一人に歌っていた。3年前自分を拾ってくれた恩もある。だが、それだけではない。でもその思いを封じ、アギレイは続けた。
「シェリルを歌えば客は乗ってくれるのよ。『銀河の妖精』。そして今や『天使(アンギル)』ですもんね…。彼らにとってはミンメイよりもミレーヌよりも、シェリルの方が人気があるもの」
 だから客に媚びたのだ、と。
「アギレイ。ミシェルは」
 グレイがそう言いかけたとき、ステージではミシェルの声が響いていた。
「明日のステージが、最後だから」
 そう、聞こえた。後半は客のどよめきでかき消され、ミシェルの声が聞こえなかった。
「え…?」
 思わずアギレイは耳をそばだてる。グレイはぐっと唇をかみしめ、顔を逸らした。
 ステージからは客達の叫びが響き、
「ミシェルの「射手座」が聴きてえ!」
 そう叫ぶ者もいた。が、
「ごめん。シェリルは…歌えないんだ」
 ミシェルはそう告げる。客からはあからさまな不満の声が響いた。
「…歌えば、いいじゃない」
 アギレイはそう呟く。
 ーー私も、聴きたい。
 そう思う自分がいる。
 だが、そこでふと気付いた。
 客達からミシェルに「シェリル・ノーム」を歌うように言われたことは今までだってあったが、ミシェルはそのたびに歌えないと断っていた。
 自分に対する当てつけか、と腹を立てていたのだが。
(ミシェルがシェリルを『歌えない』理由がある…?)
 ふと、思い至る。そしてそのまま、扉を開ける。
「アギレイ」
「帰るわ」
 まさか、とは思うが、調べてみる価値はある、と思った。


 船団間での通信には当然ながら時差がある。数百時間のタイムラグが存在するが、現在LAIが開発したスーパーフォールドパックは船団間通信でのみ多くの船団で使用されているため、通信だけなら数時間の時差ですむ。だが、相手の時間が実際何時なのかは、かけてみないと分からないことが多い。
「…はい」
 眠っていたのだろう。
 数コールで相手は出たが、その声には気怠さがあった。無理もない、と思いつつ。
「見つかりました」
 そう告げた。
「……なにが」
 と、訊き返しながら暫し息を呑み、その沈黙には爆発寸前の押さえられた感情を感じた。演じることも忘れ、彼は今、期待と不安の感情でせめぎあっているのだろう。
「現在マクロス7にいます。ですが、明日にはここを離れるとのこと。至急人を寄越してください」
「俺が行く!」
 一方的にそう告げて、
「兄さん、俺は今SMS運輸船の護衛で、7に近いところにいる。今から座標を送ってくれ」
「…あなたが、来るのですか。任務中でしょう。誰か代わりの者を寄越してください」
「しかし」
 現在、彼は軍を退役しSMSに復帰しているが、民間企業とはいえ急に仕事を投げて来れるはずがない。だが、
「…今、こちらにはオズマ隊長とクラン達がいるから、俺一人抜けても支障はない筈だ」
 その時だった。
「うるさいぞ、アルト」
 通信の向こうで、声が響く。
「隊長!」
「なにを騒いで…って、通信中か」
 その声に、彼は呼び掛けた。
「代わっていただけますか」
 船団特別通信のため、互いの画像は出ない。相手は訝しく思いながらも何かを感じたのか、
「オズマ・リーだ」
「早乙女矢三郎です。有人さんは気にしないでください。至急のお願いがあって通信させていただきました」
「お願い?」
 怪訝な声に、
「”彼女”が見つかったので、お知らせを。こちらを出奔した理由は未だ不明ですが、速やかにその身柄を確保する必要があると思います。至急、誰か人を寄越してください。現在地の座標を送ります」
「7か…近いな。分かった」
「兄さん!隊長!」
「やかましい」
 部下を一喝し、
「フロンティアにはこちらから…知らせておく。あまり大仰にならない方がいいだろうな」
「そうですね。フロンティア政府よりもSMS本部のみ、が良いかと思います。よろしくお願いします。こちらのスタッフから改めて連絡するかとは思いますが」
 そう言いながらも、矢三郎には不安があった。フロンティアからここまで、急いでも最低3週間はかかる。
「隊長」
 縋るような部下の声を、オズマは無視して会話を続ける。
「彼女、どんな様子だ」
「…名前も、姿も声も変えていました。シティの近く”アクショ”のバー”7thMoon”で歌ってましたよ」
「その店なら知ってる」
 オズマは勢い込んで告げた。FireBomberのファンにとっては”聖地”の一つだ。
「やはりあの事故はフェイクだったというわけか」
 ――”自らの事故死”を装ってまで、姿を消し、自分達の元から去っていった彼女。その事情はこちらには分からないが、不甲斐ない部下にも一端の原因はあるだろうとオズマは思った。
「そうだ、名前を変えていると言っていたな。今はなんと」
 そう訊ねれば、珍しく矢三郎は逡巡したようだった。オズマの後ろで、アルトも眉を顰める。だが、
「ミシェル、と」
 矢三郎がそう告げると、オズマもアルトも一瞬息を呑む。喪われた、大事な名前。彼女にとっても友人だった。
「あいつ…」
 アルトが思わず声を漏らす。
「わかった。あんたはどこに」
「シティ内のホテルに滞在しています。ここで合流しましょう」
 そう告げて、また新たに座標を示した。
「隊長、兄さん!」
 たまらず、アルトが再び叫ぶ。だが、
「わかった。同行するのは女性が良いだろうな」
「そちらに医療経験のある人間がいれば、ベストなのですが」
「医療経験?カナリアはフロンティアだしな。少し分野が違うが、そうするとやはりクランか。だが、彼女は体調が悪そうなのか」
「恐らく。こちらで医師には、以前も服用していた薬を処方されているようです」
「以前、って…あれか?V型感染症の」
「そのようです」
「ばかな…」
 オズマは呻く。彼女の病はランカが、正確にはランカと共生しているフォールド細菌に感応した、彼女の体内のフォールド細菌によって治癒されたはずではなかったか。それなのに、再び発症しているということは。

 そうすれば、彼女が自分たちの前から、フロンティアから姿を消し、その際に事故死を装ったことにも納得がいく。
 シェリル・ノームは人類を救った歌姫、ランカ・リーは操られていたとはいえ、人類に敵対し、フロンティアに甚大な被害を及ぼした。
 それを”フロンティアの英雄”アルトと”銀河の歌姫”シェリルが擁護することで、ランカの立場はかろうじて守られていた。まして、シェリルが”自らの恩人”としてランカを守っていることで、最近ではランカ単独でもライブを行えるようになっていた。
 そう。
 ランカが漸く一人でライブができることを見届けるかのように、シェリルは。
「…とにかく、彼女の様子を知ることが先決だな。その医者にも会えるか」
「ええ。実は…」
 矢三郎はそう答え、事情を説明する。”ミシェル”は明日のライブを最後に7から去ること。その際に”シェリル”の曲を一曲披露すること。医師は、ライブには必ず訪れることを。
「そのライブは何時からだ?…わかった、間に合うだろう。7に着いたら連絡する」
「隊長」
「7にはクランを行かせる」
 畳みかけるアルトに、オズマは告げた。そして、
「72時間だ」
 と、宣告する。
「貴様には72時間、有給をやる。俺は知らん」
「隊長…!」
 今にも感極まって泣き出しそうな部下に、
「…シェリルは再び発症している可能性がある」
「……」
「どうして、彼女がお前の前から姿を消したのか考えたことはあるのか」
「……」
「俺は本社に連絡をする。…アルト、もう有給時間は始まっているぞ」
「イェッサ!」
 敬礼もそこそこに、身を翻してアルトは駆けだしていく。それをみやり、一つため息をついてからオズマはクランに連絡を入れた。

 星の海はどこまでも昏く深い。そこを漂う自分は塵にも等しい存在でしかないと実感させられる。ましてや、『クアドラン』ではなく、マイクローンサイズでバルキリーに乗っている時は。
「SCULL2。担当地域に異常なし」
『了解』
 管制官に定時報告を終え、コクピットのシートに身を沈める。そろそろ交代の時間だ。四機の大型貨物輸送船に対し、護衛艦が一機、そこに格納されたバルキリーとクアドランは合わせて六機だが、実際に稼働しているのは四機。予備機にVF-25とクアドランが一機ずつ。
 交代で哨戒・護衛に当たっている。が、マクロス7に近いこの宙域は平和そのもので、はぐれ者のゼントラ海賊や、攻撃的な宇宙生物も居ない。危険があるとすれば、デフォールドの際、小惑星帯に誤って突っ込むことくらいだ。それでも、油断はしないにこしたことはないのだが。 
『…お姉様』
「なんだ、ネネ」
 モニタに映るネネの表情は暗い。それに気付かないふりをして、いつも通りクランは笑ってみせる。
『お姉様は、その…もう、クアドランには乗らないので?』
「いや?フロンティア以外の宙域ではこちらの方が便利だからな、小回りが利くし」
『……』
 ミシェルの残した、青い機体、それをクランが引き継いだ。スナイパータイプの装備ではアタッカータイプの動きに適応できないので、多少装備を替えているが。
 ネネの指摘したとおり、あの日以来クアドランに搭乗していない。
 そして、惑星・フロンティアの周辺宙域が安定しかけていることを受け、SMSは本来星間運輸船団の護衛という本業に立ち返り、長距離輸送船団の護衛に当たることを、彼女自ら志願した。
 それは、彼も同じこと。
『SCULL2、こちらSCULL1。応答願う』
「ヤー」
 不意に通信が入り、クランは応答した。
『クラン、至急艦橋(こちら)に戻って来れないか』
 オズマの口調は珍しく焦っているように聞こえた。
「…どうした?」
『艦橋で話したい。ネネ、悪いがそのまま哨戒を続けてくれ』
『了解しました』
 応じるネネに頷いてみせ、どことなく不吉な予感を覚えながらも、クランはそのまま艦橋へと戻った。

「7に行って、人に会ってきて貰いたい」
 オズマからの第一声に、クランは首を傾げた。
「…お使いか?」
 やや憮然とした口調でクランは問い掛けた。ここから7までは三時間弱。荷物の受け渡し程度なら、検査も含めて数十分。半日もあれば余裕で往復できる。ただ、その「護衛」というのならともかく、「自分が直接、その人と会う」理由が分からない。
 するとオズマは珍しく口調を濁らせ、
「まあ、その…これを観てくれ」
 と、手元のデバイスを作動させた。
『――隊長!』
『なにを騒いで…って、通信中か』
『代わって頂けますか』
 叫ぶアルト、オズマの声。そして、もう一人の声はクランの知らない男性だ。厳しいオズマの表情に、クランは問い掛けることも出来ず、ただそれを見入っていた。
 が。
「…ミシェル、だと」
 彼らの言う”彼女”、それが誰なのか漸く推測が出来た矢先、その名を聞かされ黙ってはいられなかった。だが、なんとか感情を抑え込み、彼らのやりとりを聴いた。長いような、短いような数分間の音声が終わり。
「だから、あいつは…俺たちから、アルトから逃げた、のか」
 オズマの声に、クランは、
「わからない。なあ、人違い、という可能性はないのか?」
 そんなことはないと思いながらも問い掛けた。
「アルトから聞いたが、この”ヤサブロー”という人物は、たとえどんな変装をしていても骨格などから見破るそうだ」
「でも」
「それを確かめるためにも、お前に行って欲しいんだ、クラン」
「アルトが向かったなら、私は不要ではないのか」
 そう言うと、
「アルト一人では、何をしでかすか分からないな、義兄がいるとはいえ、暴走する可能性が高い」
「私に手綱を取れと言うのか」
「そういうことだ」
「オズマ…」
 やや呆れた声を上げた時、
「それに、V型感染症…クランも少しは知識があるのだろう?」
「……私は生物学が専門だが、医者ではないぞ」
「そうだったな」
 やや沈黙があって、
「じゃあ、行くか。アルトはもうとっくに出ているだろう」
 クランはそう告げると、
「いや、お前と一緒に行くように言ってある。まだ発信許可は出していない」
「…了解」
 すでに疲労を帯びた声で、クランは応えた。



【4.fiancé】へ続きます

テーマ : マクロスF
ジャンル : アニメ・コミック

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プロフィール

Rook

Author:Rook
ようこそおいでくださいました。
こちらはマクロスフロンティア感想・および原作とは全く関係のない妄想小話の吐き出し部屋です。
最初に来られた方は『はじめに』を一読下さい。
銀河の妖精至上主義
一応映画が公開されるまでの期間限定ですが、もしかしたら延長もあるかもしれません(笑)
→とりあえず完結編公開まで。

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