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Phase finale 3

この章はひとまず、ここまでです。



-3-


 これは、何の因果だろうか。
 いつか、あの戦時中の時のように、シェリルの”妖精”を聴いている。クランと二人で。
 ”FIREBOMBER”の、熱気バサラの歌を歌っている時には感じなかったが、この歌は流石にわかる、シェリルだと。
 観客達もこの歌を知らないとはいえ、その魅力に取り込まれたように、みな微動だにせず聴き入っている。
「いい、歌だな」
「ああ」
 交わす会話もあの時と同じ。
 やがて歌が終わり、ミシェルはそっと一礼してステージを去った。その姿に、ただ観客は拍手を送る。万雷の拍手であるのに、何故か静寂に感じる。もう、引き留めることは出来ないと分かっているかのようだった。
 それを見届け、アルトとクランは店を出た。

 ステージは無事、終わった。
 これが正真正銘最後のステージ、最後の歌。
 観客の拍手に送られて、ステージを去る。楽屋から僅かばかりの私物が入ったバックを持ち、そのまま宇宙港に向かうつもりだ。
 誰も居ない、楽屋を振り返る。
「ありがとう」
 それは誰に向けた言葉なのか、自分でも良く分かっていない。それにしても、アギレイに指摘されて焦らなかったと言えば、嘘になる。まさか気付かれたとは思わなかった。なんとか誤魔化したつもりだが、アギレイがもし最後の曲を聴いていたら、また確信したのだろうか…。
 本当は、マイナーな曲とは言え歌わない方が良いとは分かっていた。でもせめて、歌手生活最後に自分の歌を歌いたかったのだ。
 次のフォールドで、自分の命が持つかどうか。
 よしんば、別の船団へ辿り着けたとしても、もう歌う力は残っていないだろう。いずれにせよ、もう時間はない――。
 裏口から店を出る。
「あ…」
 雨が、降っていた。7では気候制御装置はフロンティアで起動していた物と同じだと聞いた。雨が降るなら、広報で予告が出ていたはずだが、おそらく聞き流していたのだろう。
「ふふ」
(あの時みたい) 
 雨の中、絶望にうち拉がれて街を彷徨った。そして、あの時…。
「……」
 床に倒れ込み、這い蹲っていたあの時、愛しい男の幻を観た。
 そう、幻だ。
 だが、
「シェリル」
 雨に濡れて、佇んでいるその男。自分も羨むような、美しい桔梗色の長髪はなく、一介の船乗りのような風貌の青年。でも、見紛う筈がない、その姿、その声。

 幻だ。
 踵を返せば、幻は消えるはずなのに、躯が動かない。
「シェリル」
 自分はもう、シェリルではない。だけど。
(あなたに)
「あんたに、だけは…」
 上手く笑えているだろうか。
「…たく、なかっ…な…」
「シェリルっ!」
 男の腕が、抱き留めてくれたのが分かる。最後にせめて、その顔を見たかったのに。
 言葉が、そして意識が途切れた。


「アルトっ」
 少し離れていたところから見守っていたクランが駆けつける。そして、アルトの腕に抱き留められたシェリルを観て、息を呑んだ。
 奇遇にも、アルトと同じように長かった髪を短く切り、しかも色を染めたのかそれとも抜いたのか、アッシュグレイの短髪のせいで細い首筋はますます細く見えた。窶れ果て病に冒されているのが見て取れる。それでもなお、彼女は美しかった。
「シェリル…」
 泣き出しそうなクランに、アルトは声をかけた。
「クラン、兄さん達に知らせてくれ」
「あ、ああ」
 その声にクランは頷き、駆け出していく。
 アルトは膝を突いたまま、シェリルの胸に耳をよせた。

 微かだが、確かな鼓動を感じる。だが、

――あんたに、だけは……。
 
 苦い微笑みと共に、告げられた言葉の続きはなんだったのか。焦燥ごと、アルトはシェリルを抱きしめた。


 ドクと共に裏口に向かったグレイとアギレイが見たのは、青い髪の少女と、蹲っている見知らぬ男。だが、その腕にはミシェルが固く目を閉じ、その男に身を委ねているかのように見えた。
「っ」
 思わず駆け出そうとしたグレイを止めたのは、いつの間にかそこに現れた、異形の男の一瞥だった。あの時とは違って今は普通に見える服装だが、それでも異彩を放っている。いや、敢えてその気配を発散することで、グレイ達を威圧していたのだろう。
「……!?」
 アギレイも息を呑んだ。どうみても、そこに居なかったはずなのに、突如宙から現れたかのように見えた。しかも、無言のままこちらの動きを止めるとは。
「ドク」
 その男が、口を開いた。
「とりあえず、場所を移動しましょう。…それで良いですね、クランさん、アルトさん」
 シェリルの躯を抱いた青年が頷き、身を起こす。その傍に、青い髪の少女が寄り添った。
(この人が)
 アギレイは身を固くする。グレイは”早乙女嵐蔵筆頭後継者”を気にしているようだが、本当に恐ろしいのはもう1人の男だ。
 歌舞伎で見た”鬼”というのが、現存するのなら今目の前にいる男がそうだろう。おそらく自分が記録映像で観た記憶とあっているなら、彼こそ”フロンティアの英雄”である筈だが。
 彼女を抱いたまま、ゆっくりと立ち上がる。その様子には確かに愛情を感じられる、というのに。
 そして、その人に抱えられた”ミシェル”を心配そうに見つめる青い髪の少女、耳の形からマイクローンと分かる。幼い外見だが、その目の色や態度から、本当は大人なのだろうと思われた。ドクとはもう知り合いのようで、一言二言会話を交わす。そして、その双眸がこちらに向けられた。
「私はクラン・クラン。…ミシェルの友達だ」
「あ、私はアギレイ。アギレイ・ファーカット」
「よろしく」
 伸ばされた手を握り返した。軍人だろうか、意外にも強くしっかりとした握手だった。だが、彼女を”ミシェル”と呼んだ時、クランという、彼女の瞳は揺らいだ。自分はもう”ミシェル”が本当は何というのか知っている。グレイはそのまま彼らについていく。
(後でグレイに聞こう)
 自分の中には単なる好奇だけではなく、純粋に”ミシェル”を案じる気持ちがあることに、彼女は気付いた。アギレイはその感情に戸惑いながらも、自分のステージへと向かった。


 向かったのは、ドクのアパート。狭く、椅子も一つしかないため、シェリルを寝台に寝かせると、ドクがその椅子に座り、ほかの者は立ったままドクの話を待った。
「…失礼ですが、あなたは?」
 矢三郎がグレイに訊ねる。
「”7thMoon”の雇われ店主だ」
 ぶっきらぼうにグレイは答え、腕を組んで壁により掛かる。
「ミシェル…彼女をこの店で雇っていた」
「そうですか。私は…」
「早乙女矢三郎、次期、早乙女嵐蔵…」
 グレイがそう告げると、矢三郎は苦笑した。もう一人の男は黙ったまま、じっとミシェルを見つめている。青い髪の少女、クラン――は、ドクに訊ねる。
「どうだ」
「だいぶ、脈が弱い。ここではどのみち無理だ。病院の手配が出来たら、入院させるしかないな」
「ああ。…ヤサブロウ」
「手配しています。もうじき連絡が来ると思います」
「頼む」
 クランは彼女の顔を覗き込みながら告げた。そこへ、
「ご同行願いますか」
 矢三郎がドクに告げる。要請ではなく、強要だった。
「…わしは」
「残念ながら、ここ、7ではこの病気に詳しい医師が居るとは思えないでしょう。あなたを除いて」
「……」
 ドクが何かワケありの医師らしい、というのはグレイも薄々気付いていたが、今、”ヤサブロウ”が話していることはそこに触れるものなのだろう。
「えっと、グレイ、さん」
 クランが彼に話しかけた。
「彼女、あなたの店で歌っていたんだろ。どんな歌を?」
 その声に、もう一人の青年が漸くこちらを観た。…昏い双眸だ。目線はこちらを向いているが、その瞳には空虚しかない。
「”FIREBOMBER”、熱気バサラのカバーばかり歌っていたな。客には圧倒的な人気だった」
「…そうか」
「クランさん、だったな」
 戸惑いながらグレイが訊き返した。
「アギレイが、言ってたんだが…彼女は、”ミシェル”はその…”シェリル”なのか」
「……」
 沈黙こそが肯定だった。クランはそっと目を伏せる。グレイは寝台に横たわる、彼女の顔を見つめる。

「ここで歌わせてくれないか」
 一ヶ月前、そう言って店に来た、あの時から彼女に惹かれていた。やたら細くて華奢なくせに、その瞳には、強靱(つよ)い意思を感じられた。
(そうすると、この男は…)
 先刻から一言も発しない青年。今はただ、彼女の寝台の傍に、跪いている。グレイもビジョンで観たことのある、あの”フロンティアの英雄”とは、とても思えなかったが。
「アルトさん」
 いつの間にか、出かけていたのだろう。どこからか戻ってきた矢三郎が告げる。
「病院の手配が出来たそうです。救急車も手配しました」
「ああ」
 頷いても、彼の目線はずっと彼女に向けられたまま。
「グレイ」
 すると唐突に、グレイへドクが話しかけてきた。
「アギレイの言うとおり、彼女は”シェリル”だ」
「ドクター・セルヴァンテス」
 恐らく、”ドク”の本名なのだろう。グレイですら知らなかったその名を呼び、矢三郎は彼に牽制をかけたようだった。だが、
「良いだろう。一応彼も関係者だ」
「…そうですか。なら、私から説明させて頂きます」
 ドクの言葉に頷き、話し始めた。ミシェル、彼女は約一年前、シャトルの事故によって亡くなったと思われていた、あの”シェリル・ノーム”と思われること。生存していてなお、名を隠し、一介のシンガーとして歌っていた理由は分からないが、おそらくは病魔に冒され、自分の寿命が短いのを知っていたからではないか。
「ここ…7の前に、いくつかの船団を回っていたとは聞いたが」
 それだけ聞けば、グレイには十分だった。他言無用、との誓いを立て――ただし、アギレイにのみ、事情を打ち明ける。そう約束して、立ち去った。




2012/1/14 更新 修正

テーマ : マクロスF
ジャンル : アニメ・コミック

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Rook

Author:Rook
ようこそおいでくださいました。
こちらはマクロスフロンティア感想・および原作とは全く関係のない妄想小話の吐き出し部屋です。
最初に来られた方は『はじめに』を一読下さい。
銀河の妖精至上主義
一応映画が公開されるまでの期間限定ですが、もしかしたら延長もあるかもしれません(笑)
→とりあえず完結編公開まで。

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